4 観察
ここでの観察とは、研究者が調査時に行う動物行動の直接観察のことをさす。
動物の行動観察は一朝一夕で見につくものではない。
how toの事柄のように思われるが、フィールドで行う直接観察は頭で考えている暇はなく、体で反応できないといけない。なので、観察する前に様々なことを想定し整理する必要がある。
筆者のサル調査経験をもとに観察についてまとめていく。
4.1 定義
観察という言葉の意味を今一度広く考えてみる。観察とは「観る」+「察する」ということであり、ただ見ればいいわけではないことがわかる。
観て何を感じどう考えたか、これが観察である。
「観る」→「感じる」→「考える」→「観る」→・・・→
このサイクルを繰り返し、自分なりの仮説を日々更新し、こうであるに違いないと自信を深めていくことが観察するうえで重要である
4.2 サル観察時の注意
屋久島のサルは思いのほか近くで見れてしまうため、サルの警戒・ストレスのシグナルを見落とさないようにすることが欠かせない。サルを観察する際は
- 見回し行動(visilance)
- セルフスクラッチ(self-scratch, 総称:SDBs (self-directed behaviors))
この二つを特に注意する必要がある。
- ビジランス
-
サルに近づきすぎていると、サルは人のほうを何回か振り向く。この時点でもう近づきすぎである。
しかし、人はサルの顔が映った写真を撮りたいと思うので知らぬ間に近づいていることに気づいていない。この些細なことに気づいて初めてサル屋のスタートである。 - セルフスクラッチ
- ストレスを感じた時に体を手や足で掻く行動。セルフスクラッチもストレス行動の一種であるが、「近づきすぎ!」とサルが感じた時に出やすい行動がセルフスクラッチである。
観察方法に関する本24,25,26 はいくつか出版されているので、詳細はそちらに譲る。ここでは、霊長類の追跡を例に調査で必要な観察法を紹介する。
4.3 行動記録
まず1人で霊長類を観察するとなると、個体追跡か群れ追跡かの2択となる。これを前提に以後話を進める。2人以上の同時個体追跡27は1人での個体追跡の応用であることから詳細を割愛する。
記録方法を列挙すると、
- 連続記録
- 全生起サンプリング (all occurence sampling)
- 瞬間サンプリング (instantanous sampling)
- ワンゼロサンプリング (one-zero sampling)
- アドリブサンプリング (ad libitum sampling)
がある。これらの記録方法は互いに排反なものではなく、自分の知りたい事象に応じて組み合わせることができる。ただし、システマティックな行動データにするためにはアドリブサンプリングを避け、それ以外の記録方法をとる。次にこれらの記録方法を使う場面を例を挙げて紹介する。
- 連続記録
- 秒単位で起こるような行動について記録することが多い。
- 全生起サンプリング
-
観察できたある行動について全ての事象を記録する。全てを記録できない場合アドリブサンプリングなってしまうので注意。自分が観察できる範囲(視野)をよく見極めてその範囲内で全て記録できるように工夫する必要がある。
稀な行動について記録するときは有効な記録方法。
e.g.) 追跡個体の半径10m以内の敵対的交渉を記録する。 - 瞬間サンプリング
- 一定時間間隔(e.g. 1分、5分など)ごとにその瞬間の行動を記録する。活動項目(activity budget)や半径\(x\) mの近接個体数を記録する際によく使われる。
- ワンゼロサンプリング
- 一定時間間隔の中で、着目している行動が起こったかどうかで記録する(e.g. 1分ごとの遊びの有無)。
- アドリブサンプリング
-
頻度や割合といった形でシステマティックに結果を出したい行動については使えない。しかし、敵対的交渉などあまり頻繁に観察できない行動を記録することで個体関係を確認する際は役立つ。
また予備観察時に、個体識別や個体関係を理解することに役立つ。
フィールドワークに関する本は多数あるが、その中でも『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)28を一読することをお勧めする。フィールドワークとは?観察とは?客観とは?科学とは?そんなことを考えさせられる本。