9 種間関係

9.1 サル–シカ関係

ヤクシカがヤクシマザルを利用していることの方が多い。

9.1.1 シカがサルに近づく理由

ヤクシカはヤクシマザルの糞を食べる134
まるでハンバーグを食べるかのようにモグモグと。
だが、しかし、サル糞を食べるかどうかは地域差があるが、なぜそうなのかはわかっていない。

ヤクシカはヤクシマザルの採食に関連する声を聴いて食物の探索効率を上げている可能性がある135
しかし、日中にシカを個体追跡してみた研究では、採食時間割合は全体の約25%で、そのうちサル関連の採食割合は多くても10%ほどに過ぎなかった136,137,138

採食割合から見るとシカはサルばかりに頼って食べて生きているわけではないようだ。サル糞の食べ物としての質がどれだけ高いか気になるところだ。

9.1.2 サルがシカに近づく理由

ヤクシマザルはヤクシカの背中に乗っていたり、毛づくろいすることがある。
種間交尾行動を目撃したとする事例報告139があるが、この報告を読んでみると実際にはオスザルがメスジカの背中に乗っただけで交尾はしていなかった。 そのため、この行動は種間交尾行動とは言えないだろう。
同種の交尾相手がいないことで発散相手として異種のシカにまたがったとする交尾剝奪(mate deprivation)仮説が挙げられており、この仮説は挙げられた仮説の中で筆者の観察印象に最も近い。ちなみにサルがシカに乗る行動は交尾期に限らず観察できることを注記しておく。


サルとシカの種間関係に関する一般向けの本140もあるので、興味のある人は読んでみるとよいだろう。

9.2 種子散布

種間関係は動物間だけではない。植物の種子を散布する存在として動物は欠かせない(総説141)。

ニホンザルの場合、果実サイズに対して果肉が多い場合、種子散布されやすい。種子散布には糞散布か履き戻し散布のどちらかであり、種子サイズによって決まる142。噛み砕かれるかどうかも種子サイズで決まる143

引用文献

134.
135.
136.
揚妻直樹 & 揚妻-柳原芳美. 同所的に生息するサルとシカの種間関係 (XI. 共同利用研究 2. 研究成果). 霊長類研究所年報 37, 124–124 (2007).
137.
揚妻直樹 & 揚妻-柳原芳美. 同所的に生息するサルとシカの種間関係 2 (x. 共同利用研究 2. 研究成果). 霊長類研究所年報 38, 98–98 (2008).
138.
揚妻直樹 & 揚妻-柳原芳美. 3 照葉樹林に生息するヤクシマザルとヤクシカの種間関係 (x. 共同利用研究 2. 研究成果). 霊長類研究所年報 39, 114–114 (2009).
139.
Pelé, M., Bonnefoy, A., Shimada, M. & Sueur, C. Interspecies sexual behaviour between a male Japanese macaque and female Sika deer. Primates 58, 275–278 (2017).
140.
辻大和. 与えるサルと食べるシカ. (地人書館, 2020).
141.
Tsujino, R. & Yumoto, T. 霊長類をめぐる生物間関係と生態系における役割. 霊長類研究 30, 79–93 (2014).
142.
143.