4 系統発生
4.1 属レベルでの観点
ニホンザルが含まれているグループであるマカク属は約20種いて、北西アフリカに生息するバーバリーマカク(Macaca sylvanus)以外はすべてアジア南部に生息している。マカク属は700~800万年前のアフリカ北部を起源とし、500~600万年前に中近東を経てユーラシア大陸へ進出した38。
4.1.1 マカク属 (genus Macaca) のサル
ニホンザルの仲間であるマカク属のサルには以下が挙げられる39。 マカク属はヒト以外の霊長類の中で最も広く生息している属の1つであり40、多くの様々な環境に適応してきた41。 ニホンザル以外の種について、和書があるものは括弧の右肩に数字を振ってある。
- ニホンザル (Japanese Macaque, Macaca fuscata)
- アカゲザル (Rhesus Macaque, Macaca mulatta)
- チベットモンキー (Tibetan Macaque, Macaca thibetana)42
- タイワンザル (Formosan Macaque, Macaca cyclopis)
- カニクイザル (Long-tailed Macaque, Macaca fascicularis)
- ベニガオザル (Stump-tailed Macaque, Macaca arctoides)43
- トクモンキー (Toque Macaque, Macaca sinica)
- ボンネットモンキー (Bonnet Macaque, Macaca radiata)
- ホオジロマカク (White-cheeked Macaque, Macaca leucogenys)
- アルナーチャルマカク (Arunachal Macaque, Macaca munzala)
- アッサムモンキー (Assamese Macaque, Macaca assamensis)
- スラウェシ島のサル (Sulawesi macaques, Indonesia)
- ブトンマカク (Buton Macaque / Muna-buton Macaque, Macaca brunnescens)
- トンケアンモンキー (Tonkean Macaque, Macaca tonkeana)
- ブーツマカク (Booted Macaque, Macaca ochreata)
- ゴロンタロマカク (Gorontalo Macaque, Macaca nigrescens)
- クロザル (Crested Macaque, Macaca nigra)
- ムーアマカク (Moor Macaque, Macaca maura)
- ヘックマカク (Heck’s Macaque, Macaca hecki)
- シシオザル (Lion-tailed Macaque, Macaca silenus)
- シベルトマカク (Siberut Macaque, Macaca siberu)
- パガイマカク (Pagai Macaque, Macaca pagensis)
- ミナミブタオザル (Southern Pig-tailed Macaque , Macaca nemestrina)
- キタブタオザル (Northern Pig-tailed Macaque, Macaca leonina)
- バーバリーマカク (Barbary Macaque, Macaca sylvanus)
4.2 ニホンザルの祖先
ニホンザルの祖先は、遅くとも43~63万年前までに朝鮮半島を経て大陸から移動してきたと考えられている44,45。これは現生人類が日本列島にやってきたとされる4万年前頃46,47よりはるか昔のことである(約11万年前の中期旧石器時代の遺跡が発見48されるなど4万年前より人類が存在していたことが示唆されているが、まだ証拠が少ない)。 その後、海水面の上昇により大陸と隔離し、温暖化とともに日本列島各地に広がったと考えられている。全国のニホンザル個体群のミトコンドリアDNA(mtDNA)から、兵庫県から岡山県あたりを境界線に、それより北のニホンザルは後氷期以降に急速に拡大していったことが示唆されている49。
屋久島はニホンザルが生息する南限で、ここに生息するニホンザルは最も早く他地域と隔離され、別亜種のヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)に分類されている。
4.3 種内変異
ニホンザルは青森県から鹿児島県本土までに生息しているホンドザル(学名:Macaca fuscata fuscata)と屋久島に生息しているヤクシマザル(学名:Macaca fuscata yakui)の2亜種に分けられる。ニホンザルが北海道・沖縄に分布できなかった理由は、海水面が最も下がる氷河期においても津軽海峡(ブラキストン線)とトカラ海峡(渡瀬線)が陸続きにならなかったためだとされている。
4.3.1 遺伝的観点
mtDNAで調べた結果、ヤクシマザルは系統的に近いとされる九州のニホンザルよりも遺伝的多様性が低く、屋久島の個体群は急拡大したことを示唆されている50。これは7300年前の喜界カルデラの噴火によって生じたボトルネック効果の可能性が指摘されている。また屋久島の中で見ても、ハプロタイプの多様性に高度分布の偏りがみられ、植生回復の影響が考えられる。
喜界カルデラの噴火:噴火による津波の到来が小瀬田の地層から確認されている51
4.3.2 形態的観点
4.3.2.1 体型
ヤクシマザルはホンドザルと比較して、体がずんぐりむっくりしている(図 4.1)。

図4.1: 体型の種間比較
ヤクシマザル(左)はホンドザル(右)と比較して胴長が長く、手足が短い、ずんぐりむっくりな体型をしている。
4.3.2.2 体毛
ニホンザルの体色は、月平均気温が高いほど黒く、低いほど白い傾向があることが知られている52。ヤクシマザルの生息地はニホンザルの中で最南端に位置し、温暖な地域に生息する特徴として体毛の密度は低いが、相対的に毛が長いことが知られており、降水量と関連しているのではないかと考えられている53。 メスの頭の毛は、ヤクシマザルの場合パーマがかかっていて、ホンドザルは直毛である(図 4.2)。つまりパーマが見られるニホンザルは屋久島だけになる。個体差はあるものの、パーマがかかるのは12、13歳くらいではないかと思われる。

図4.2: 体毛の種間比較-メス編-
左:ヤクシマザル、右:ホンドザル
一方でオスの場合、ヤクシマザルは頭の毛が真ん中で左右に分かれ、もも割れしている(図 4.3)。

図4.3: 体毛の種間比較-オス編-
左:ヤクシマザル、右:ホンドザル
アカンボウの体毛も種内変異があるとされる。ヤクシマザルのアカンボウは体毛が黒く、ホンドザルのアカンボウは薄茶色である(図 4.4)。

図4.4: アカンボウの体毛
左:ヤクシマザル、右:ホンドザル